宇田川敬介『2014年、中国は崩壊する』を読む2012/06/19

2012.6.1刊行。扶桑社新書。著者は1969年生まれの43歳と若い。マイカルを経て、国会新聞社編集次長。
第1章 尖閣諸島で敗北した中国
 本文は170ページほどだが、66ページと38%も割いて詳細に論説してある。66ページを引用しよう。
 「しかし、尖閣諸島の領有は頓挫した。中略。これは尖閣諸島の「敗北」の中で、間接的ではあるものの、決定的な問題になるであろう。そして、同時に、この尖閣諸島での「敗北」が、共産党一党体制が崩壊する引き金になった可能性がある。筆者の分析はもちろんだが、中国の上層部も皆一様にそういった認識を持っている」と締めくくる。
 そう簡単に引き下がるとは思えない。ただし、騒げば騒ぐほど日本のナショナリズムを煽ることになる。丹羽駐日本大使に中国共産党の立場を代弁させたが、逆効果になってしまった。一触即発の国境紛争である、との認識は必要だろう。
 
第2章 日本人が知らないメンツ社会
 この内容は後講釈的なので省略。
第3章 中国経済の問題
 この章も中国の現状把握に重要なことが書いてある。「中国は法律で私有財産を認めていない」ことは分かる。「中国にある物品のほとんどは共有財産だ。この共有財産は中央・省・市など政府の所有物となっている」。(土地は)「誰も所有することができず、中略、政府から「借地」して建物を建てることになる。
 そういえば、中国の日本における土地の取引は購入だった。治外法権になることを恐れて、広大な土地を売却することに懸念がでている。週刊誌が以前から大きく採り上げている。一方では、中国における日本大使館は毎月高額の借地料を支払うそうである。
 「この所有権の原則は、通貨政策にも応用される。通貨の発行に関しては資本主義の場合、資産や国富、GDPから発行を行う。しかし、中国の場合は、その国の資産そのものが通貨発行の基準となっているのだ。ここで言う「中国の資産」とは、上記のように私有財産を認めていないことから、国内にあるすべての資産が通貨発行の準備に計上され、また、すべての投資や流通や在庫などが政府の所有物となる。つまり、中国の国土にあるすべての物品や不動産が通貨発行のもととなっている」「日本から投資した不動産や設備であっても、その所有権は日本企業が持っているように見えて、実際には中国政府の所有物となる」
 何のことはない。日本からカネを中国に投資して、金型を作らせて、生産された物品を購入している。その金型は帳簿上、日本企業の資産であり、減価償却の対象となっている。が同時に、中国の所有物でもあるし、いつでも接収されるのだ。モノに関しては持って来れないから置いてくる、無償で譲渡したとみなす税制に出来ないものか。
 そして、中国は、日本(などの外国)から受け入れた資本を、中国の通貨発行の原資にしているのである。
 次がより重要だ。
 「資産を通貨発行に転換し、国内に流通させてきた。実体経済以上に不動産価格が上昇して行く中で通貨を発行するため、インフレが進行するにもかかわらず、資本主義経済の常識からは考えられない通貨発行が行われ、「社会主義的市場経済」の中で巨大なバブルが醸成されたのだ」。
 これが今や崩壊寸前、いやもう崩壊中と言われる中国バブルの構造である。
 もう一つの謎は下層社会と地下経済である。8億人もの人民が毎日生活するために生産と消費、譲渡、賃貸、それに金融が繰り返されているはずだが、それを政府といえども把握していないようだ。
 もう少し引用してみたい。
 「下層社会は中国共産党よりもずっと以前、秦の始皇帝の時代から続いている。その間、為政者は下層社会を完全に支配できず、国家内における別組織のように扱ってきた」「中国内部には、国家に必要でありながら、政府が支配できない大多数の人々が存在しているのだ。中国共産党と政府が支配しているのは、共産党員や一般の人民に過ぎず、中華人民共和国の3分の2にあたる下層社会の民衆は共産党に寄らない政治体制と社会システムの下で生活し、間接税の支払など最低限のかかわりで生活している。そうである。
 今まで様々に学習してきたが、こんな話は知らなかったなあ。以後を読むと、中央政府と地方政府のせめぎあいにとれる。だれしも自主財源は喉から手が出るほど欲しい。大阪府と大阪市が大阪都をつくろうとする動きにも似ていないか。国の規模大きすぎて、地方政府をコントロールできていないようだ。
 日本でも、郡上一揆の原因は年貢のごまかしと、検地によって、その差をつめようとする藩とのせめぎあいが原因だった。今もまた、県でも市でも税金の裏経理はある。国にもある。消費税の先進国では、個人間の取引も盛んだという。それには消費税が非課税だからだ。ギリシャでも納税率がすこぶる悪いそうだ。所得の捕捉もできていないのだろう。だから国家財政の破綻といっても国家だけのことで国民は案外平気なのではないか。
 「まさに、この下層社会の民衆こそ、中国の王朝を何度も転覆させ、王朝を替えてきた原動力である。中略。為政者の政治が間違っていないことを証明しなければ、下層社会に突き上げられ、暴動や政府転覆の口実を与えてしまうのだ。そのような基本構造に「メンツ」が相まって中国の社会と経済を形づくっている。」
 そうか、下層社会の民衆がデモの正体だったのか。ここにプロパンガンダで民衆をまとめるための意義があるわけだ。日本は敵だ、中国大陸を侵略して、こんな悪いことをしたんだぞ、憎むべきは日本だぞ、と煽っているわけである。だが日本にとっては迷惑な話である。
 
第4章 中国崩壊とその後
 日本における下層民衆とは?かつては遊女だったり、旅芸人、山から山へ渡り歩いたサンカ、木地師など、定住しないで、年貢も納めない人々だった。江戸幕府、藩も把握できなかった。
 明治時代になって、戸籍をつくり、山焼きを禁止して、木地師を農民化して定住させた。多くの人々は戸籍を与えられた。被差別部落の人々も含めて。そして税金を徴収した。これが近代日本の基盤となっていった。敗戦で国土、資産は滅茶苦茶にされたが、国家の基盤までは崩壊しなかった。日本人には公益という思想があるからだろう。(中国人にはないといわれる。)何があっても、守らねばなるまい。

 著者は2014年に崩壊すると予言している。そして、中国共産党も予測できないようだ。まさか、たら、れば、もしもの話である。内容は本書を手にとってお読みいただきたい。かなり、恐ろしいことになるだろう。人民元と日本円の直接取引の容認も、中国が崩壊して米国債をむやみに売却されないための、アメリカ承認の救済措置と取れないこともない。
 P164の「経済界はすべて自己責任で対応すべし」は必読。中国への投資は自己資本の範囲以内で行うこと。借金を抱えている企業は撤退を早く検討するべきか。
 ある月刊誌に中国の民主化に協力を呼びかけ、資金を募る広告を見かけた。本書でその広告も信憑性があると思う。それはもう水面下で、民主化の動きが活発化しているということ。お人好しの日本人から資金を集めて、次の政治勢力たらん、とする狙いか。あの孫文に多額の資金協力をした日本人のように。