実務が師匠2016/02/28

 建設業経理士の受験日が近づいてきた。試験というものは実務の何年分かを一定の時間的制約を与えて回答させる仕組み。考えているうちに時間が過ぎてゆく過酷な試練。だから反射的に回答できるまで鍛錬する。そうさせないために問題をひねる。だから難しい。但し、試験は人為的だが実務は食べて行くための仕事。正しく回答できなければ解雇される。

 日々、実務に追われる。そんな中で起きた疑問をコツコツ調べて回答する。これが仕事。これには報酬が払われる。試験は反対に主催者に受験料という報酬を払う。実務の回答能力を試すのが試験。回答できなければ仕事もできない。誰にも分かるミスが頻発すれば解雇される。怖いのは気づかないというミス。

 たとえば、ホンハイによるシャープの買収劇で発覚した「偶発債務」の問題。おそらく偶発債務のない法人、個人はない。当方も身内の家賃の連帯保証人になっている。身内に収入がなくなるアクシデントが起きて、家賃の支払いが滞れば(偶発)当方に払えと連絡が来るだろう。実際に保証債務が具現化して、破綻した上場企業があった。これを指摘するのが公認会計士であるが、シャープの監査法人は仕事をしていたのだろうか。東芝もしかり。

 大学を優秀な成績で卒業し、難しい国家試験に合格しても、実務経験がなければこの有様である。実務とは生な取引の実態を知ることから始まる。請求書の意味と意義は誰にも分かるが、納品書、検収書の意味は分かるだろうか。そして領収書を切る。今の時代はみなシステム化され、領収書は振込については省略される時代。これを当然として育った世代は生な経験をしていないと思う。

 かつて、「週刊現代」で読んだ記事に、企業整理専門の弁護士になるために、税理士事務所に就職させてもらった話があった。駆け出しの弁護士に「会計記帳なんて、中卒レベルの仕事ですよ、先生があえてやるほどの仕事ではない」と。先生曰く、「財務諸表がどうやってできるのか、その仕組みを知りたいので、実務を経験したい」と。頭で分かっているだけでは心もとない。
 結局、倒産した、あるいは仕掛かった企業は、世間に体面を保つために、どこかで会計記帳を誤魔化す=数字を不正に操作するから、帳簿を調査する際に役立つ知識と経験が得られる。そのことをこの先生は知っていたのだ。受験勉強で得る知識ではなく実務から得られる知識を上としたのだ。