シニアこそ、市民後見人を目指せ2012/08/25

 グーグルアラート「成年後見制度」の語彙でヒットした。良質な論考なのでコピペしておく。「高齢社会NGO連携協議会(高連協)」のHPから。ロッキード事件の検事だった堀田力氏と樋口恵子氏が共同代表をつとめる団体。
執筆者は「高連協理事 河合 和」氏。
「1.なぜ市民後見人が誕生したのか
平成12年4月、介護保険制度と成年後見制度は、補完関係で同時に施行された。介護サービスの利用が、措置から契約へと移行したことにより、認知症高齢者が介護保険制度を利用しようとする場合、契約時に後見人を立てなければならなくなった。そのような状況を背景として成年後見制度は介護保険制度と同時に施行されたのである。
現在、高齢者の要介護認定者は、450万人(利用者数はおよそ350万人)に迫ろうとしている。このうち、169万人が認知症であると厚生労働省は報告している。この人数の根拠は、要介護認定をする際、本人を面談することによって得られる情報に基づくものだと言う。すなわち、要介護と認定された高齢者のうち、169万人が認知症であったということになる。要介護認定者の約8割が介護サービスを利用するために契約をしていることを鑑みれば、要介護認定された認知症高齢者169万人の約8割、135万人が介護サービス利用のために契約をしたことになる。認知症高齢者135万人の契約には、当然ながら全てに後見人を立てる必要がある。と、いうことであれば、成年後見制度の利用件数は、135万件になるはずである。
しかし、成年後見制度の利用件数は、およそ12万件(平成19年3月末)であった。
この差、135万件−12万件=123万件の契約はどのようになされたのだろうか?
後見人なしで契約をした123万人の要介護状態の認知症高齢者は、後見人を必要としながらも、何らかの理由で、後見人を持つことができなかったのである。持つべき後見人を持たないということは、護ってもらうべき身上監護と、守ってもらうべき財産管理が行われていないということになる。行われないことによってもたらされる不利益は、悲しいことに判断能力が低下した本人が被るのである。判断能力が低下しているだけに、その不利益の発覚も表には出にくい。持つべき後見人を、当たり前のように持つことが常態化すれば、高齢者虐待や悪質商法から高齢者を守ることが可能となるだろう。
介護サービス利用のために契約をしたであろう135万人のうちの大半は、判断能力に少し衰えがみえ始めた人たちだと考えればよい。このように認知症の度合いが軽い人たちでも、本人のための権利擁護を考えれば、135万人全ての人が後見人を持つべきだと考える。
その人が持つそれぞれの自己決定能力を尊重し、さいごまでその人らしく、尊厳を持って生きていくことを実現するためには、成年後見制度を利用すべきであると考える。
高齢社会NGO連携協議会は平成14年から成年後見制度の利用促進のための事業を実施してきた。そして、制度利用を進める上で「市民が後見人」として活動することの必要性を実感し、我が国ではじめて「市民後見人」の養成を実施してきた。高齢社会NGO連携協議会が養成してきた市民後見人は、この135万人にさいごまで尊厳ある生き方をしてもらうことを願い、それを成年後見制度を駆使して実現する人のことである。
知的障害、精神障害の方の成年後見制度利用を考えれば、利用者総数は、200万人を優に超すだろう。この人数は、1人の市民後見人が10人の被後見人のために後見活動をしたとして、20万人もの市民後見人が必要となることを示す、途方もなく大きな数字ではあるが、現在、行政、大学、民間等さまざまな立場の人によって、市民後見人を養成する動きが全国に広がっていることは心強い限りである。

2.成年後見制度利用の現状
成年後見制度が平成12年4月に施行されるまでの権利擁護の制度として、明治29年に施行された禁治産、準禁治産制度を挙げることができる。しかしこの制度、心神喪失、心神耗弱に該当するか否かの判定の困難性、戸籍に記載されるといった公示方法の問題、財産管理をめぐる相続人と縁故者の対立、そして「禁治産宣告」といった用語からくる差別感等が利用を妨げ、戦後55年で禁治産、準禁治産の利用は、36,700件を数えるにすぎなかった。
この禁治産、準禁治産は、平成12年4月を期に「自己決定の尊重」と「ノーマライゼーション」という2つの理念を盛り込むことによって、法定後見の「後見」と「保佐」へと生まれ変わったのである。これによって従前の制度が抱えていた諸問題を払拭し、人に優しい利用しやすい制度となった。
後見人の種類は、法定後見の「後見人」「保佐人」「補助人」、任意後見の「任意後見人」の全部で4種類である。
新制度である任意後見制度は、当初の予想を上回る利用件数が報告されており、今後も利用増大が期待されるが、同じく新制度としてスタートした補助は、利用が最も期待されたにも関わらず、利用が伸び悩んでいるという現状である。補助利用の可能性を持った人は、判断能力の低下度が低いこともあり、見過ごされた場合もあったであろう。しかし、前項にあげた135万人に数えられる人たちは、あきらかに補助を利用すべきであり、その人数は135万人の大半ではないかと予測する。この人たちの補助人に市民後見人がなり、じっくりと時間を掛け、自らが自分らしい生き方を真剣に考えるようになれば、認知症も快方に向かう可能性があるのではないだろうか。

3.第三者後見人の実状と市民後見人に求められるもの
前述した禁治産、準禁治産の後見人は、夫婦の場合は必ず配偶者であり、人数も1名に限定されていたが、新制度では、専門職や団体が、しかも複数が後見人になることが可能となったため、制度は格段に利用しやすくなった。それにも関わらず、成年後見制度の利用は12万件と低迷している。なぜなのだろうか。
後見人の約6割は親族であり、そのうち最も多いのが子どもで、全体の4割近くを占めている。しかし、現在我が国は急激なスピードで少子高齢化が進み、生涯未婚率が増加している。子どもをあてにできる人がどれだけいるのだろうか。そこで注目され、今後活動が期待されるのが第三者後見人である。
現在活動している主な第三者後見人は、弁護士、司法書士、社会福祉士の三つの専門職後見人と呼ばれる人たちである。その他、税理士、行政書士も活動を推進している。
弁護士で後見人等の候補者として全国の弁護士会に登録されている弁護士数は、約3,000人である。司法書士のうち、成年後見制度の専門家と呼ばれる司法書士は「(社)成年後見センター・リーガルサポート」に所属し活動している。所属している会員数はおよそ4,000人で、その内、後見人等候補者名簿に登録されている人数は約2,400人である。日本社会福祉士会は成年後見人候補者養成研修を行い、研修を修了した社会福祉士が「権利擁護センター ぱあとなあ」に所属し後見活動を行っている。これまでの養成研修修了者数は約2,200人で、名簿登録者数は約1,400人である。
以上、三つの第三者後見人で、専門職後見人として活動を表明(名簿登録者数)しているのは、3,000人+2,400人+1,400人=6,800人である。1人の専門職後見人が後見活動をする限度は20人とされている。6,800人全員が10人の被後見人のために活動したとしても、面倒をみることができる被後見人の数は7万人である。この人数、今すぐに後見人を付けるべきと考えられる200万人という人数からすればあまりにも少ない。
こういったことから市民後見人の養成は、急を要する課題であることが理解できる。

高齢社会NGO連携協議会がこれまでに養成した市民後見人も、弁護士、司法書士、社会福祉士ら専門職後見人と同じ第三者後見人である。ボランティアを主体とした活動をするからといって被後見人の権利擁護者である点においては、専門職後見人等と同質であり、決して責任が軽減されるものではない。市民後見人を目指す人は、まずは制度の仕組みを、そして身上監護と財産管理のあるべき姿を徹底的に学ぶ必要がある。その上、被後見人が求める後見事務を、本人の意思を尊重しながら行うための技量を実際の活動から学び、身につけなければならない。そのためには、市民後見活動を希望する本人の意思と行動力が最も大切である。
我が国の成年後見制度と同様の制度では、ドイツの世話人制度がある。その制度では、市民後見人に相当する後見人を「名誉職世話人」と呼ぶ。名誉職世話人を希望する人に求められるのは、ただ一言「誠実さ」だそうである。
市民後見人になる人に求められるのも、やはり「誠実さ」であり、その「誠実さ」が高齢社会を支える大きな力となるであろう。
シニアがこれまでの人生で培った経験や豊かな知識を社会に還元する良い機会と捉え、一人でも多くの方にチャレンジしてほしい。」

 とくに最後の「誠実さ」を強調されているのは同感だ。