損失430億、“丸紅ショック”の元凶 上場企業各社にも巨額損失与えた「あるもの」2015/06/27

ライブドアニュース(ビジネスジャーナル)から
ここのところ、国際財務報告基準(IFRS)を任意採用する企業が増えてきた。

 会計基準は国内に日本基準、米国会計基準、IFRSの3つがある。上場企業のほとんどが日本基準を採用しているが、政府が成長戦略にIFRSの適用拡大を目指すことを盛り込んだため、IFRSの採用が広がっている。

 IFRSは英ロンドンの国際会計基準審議会が作成した会計基準だ。2005年1月、欧州連合(EU)域内でIFRSの強制適用が開始された。EU加盟各国が独自の会計ルールを作っていては、アメリカに対抗できないと考えたからだ。これが、IFRSが世界的に広がる契機となった。

 アメリカでは、もともと米国会計基準が定められていたが、世界100カ国超という予想以上のペースでIFRSの採用が広がったことを受けて、08年にIFRS受け入れに舵を切った。それにより、会計基準を世界的に統一する流れが一気に加速した。

 日本では、09年に金融庁の企業会計審議会がIFRSの強制適用を視野に入れたロードマップを公表した。これを受けて、IFRSを任意採用する企業が増え続けている。

●上場企業200社がIFRSを採用か

 日本では、10年3月期決算から企業がIFRSを任意で採用できるようになった。15年5月19日時点で、85社が導入済み、または採用を予定している。

 キリンホールディングス、横浜ゴムなどが新たに準備を進めており、検討中も含めると110社を超える。電機業界では、日本電気(NEC)やパナソニックが15年3月期の決算発表時に、導入する方針を相次いで明らかにした。食品や医薬品、商社などでは、時価総額上位の企業が導入している。

 社数ベースでは、上場企業全体の5%以下だが、時価総額や純利益で見ると、全体の2割以上を占める。同じ業種の企業を比較する上で、IFRSが有効な物差しとなってきた。

 金融庁は、IFRSに関する調査報告書をまとめている。それによると、今年2月末時点で60社から回答を得ており、IFRSを採用した企業の9割が導入によるメリットを享受していた。具体的には「経営管理の効率化」が最も多く、ほかには「海外の投資家への説明が容易になった」が目立つ。

 IFRS導入に伴う新たな会計システム構築の費用は、回答があった48社のうち7割に当たる32社で1億円以上かかっていた。IFRS導入には、コストの負担が大きいことが明らかになったといえる。

 総合商社では、住友商事が採用したのを皮切りに、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、丸紅と相次いだ。ソフトバンク、楽天、ファーストリテイリングもIFRSを採用している。

 アメリカの株式市場に上場している自動車、電機、銀行、証券の各社は米国会計基準を採用しているが、今後、商社のようにIFRSに切り替える企業が増えるのは確実だろう。将来的には、200社に近づくと予測されている。

 今、上場企業は成長を第一に掲げてグローバル化を目指す企業と、そのほかの企業に分かれようとしている。前者が、IFRSのメリットを貪欲に求めることになる。

●IFRS適用の総合商社は、軒並み巨額の減損損失を計上

 IFRSは、企業の業績にどんな影響を与えるのだろうか。まず、IFRSの導入により、企業価値の算定が根本から変わってしまう。

 総合商社の15年3月期の連結決算がモデルケースになる。原油や鉄鉱石などの資源価格の下落を受けて、全社が多額の減損損失を計上した。減損とは、損失を計上して対象資産の価値を落とすことをいう。

 減損の兆候がある場合、日本基準とIFRSでは、その見方が大きく異なる。日本基準は2段階で判定し、必要がある場合に減損を実施する。一方、IFRSは資産の価値を測定し、簿価と比較して判定する。IFRSは日本基準より早いタイミングで減損を計上することが多い。

 三菱商事はシェールガスや液化天然ガス(LNG)の資源価格の下落を受けて、950億円の減損損失を計上した。三井物産は790億円、伊藤忠商事は940億円、住友商事は3103億円の減損損失を、それぞれ計上している。

 丸紅は石炭や銅の海外権益で1320億円の減損処理による損失が発生したが、M&Aによる「のれん代」の減損が、ほかの商社には見られないものだった。

 企業を買収する際に支払った金額と、買収先企業の純資産の差額が、のれん代である。日本基準では20年以内に毎期償却する必要があるが、IFRSは償却の必要はない。その代わり、大幅な価値下落時には減損処理をしなければならない。

 丸紅は、買収した米穀物取引大手、ガビロンの減損を計上し、純利益に対するマイナスの影響額は430億円に上った。ガビロンの減損は想定されていなかったため、株式市場では“丸紅ショック”と呼ばれた。

 IFRSの時価主義は、会計処理上は実態に即した評価が可能になるというメリットがある。三菱商事は、減損を計上したローソン株の株価上昇に伴う戻し入れ益で全体の利益が底上げされた。

 IFRSの導入は、企業に何をもたらすのだろうか。とにかく、会計処理だけで、企業の業績はジェットコースターのように急上昇と急降下を繰り返すことになる。
(文=編集部)

【各業種の時価総額の上位企業でIFRS導入が目立つ】

※以下、社名、時価総額(単位、兆円)

商社
1位 三菱商事 4.4
2位 三井物産 3.0
3位 伊藤忠商事 2.6
4位 住友商事 1.8
5位 丸紅 1.2

医薬品
1位 武田薬品工業 4.7
2位 アステラス製薬 4.0
3位 エーザイ 2.3
4位 中外製薬 2.1
5位 大塚HD 2.1

食品
1位 日本たばこ産業(JT) 9.0
2位 アサヒグループHD 1.9
4位 キリンHD 1.5
5位 味の素 1.5
以上

 日本はとかく急激な変化を嫌う。多分、税金を計算するために税務会計の考え方が優勢をしめているからだと思われる。徴税する側にとっては変化を好まない。安定的な税収を期待する。長いものにはまかれろの文化である。
 対するヨーロッパは劇的変化を求める。これは文化の違いというしかない。歴史を見ても階級闘争による共産革命、もっと古くはコペルニクス的転換などの例がある。時の権力者への反抗の精神がある。今の時代ではアメリカへの対抗心である。ドルに対するユーロだけでなく、会計基準でも独自性を打ち出したかったわけだ。会計の世界でもそんな土壌から変化を生み出してゆくのだろう。
 しかし、これを採用すると税務にも甚大な影響があるから、国税は何か秘策を練っているはず。ますます複雑化しそうである。税効果会計など何度読んでも理解しにくいが、理論的には普及するだろう。

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