『稲盛和夫の実学 経営と会計』を読む2011/06/04

 帯に「会計が分からんで経営ができるか」と書いてある。
 およそ会計に無関心な経営者はいなかっただろう。特に関心をもった所を抜粋すると
P28 減価償却の章、
 税法では法定耐用年数が優先する。しかし現実にはもっと早く償却する必要がある、というのだ。稲盛氏に仕える経理担当者は税務会計と管理会計の確執に悩むのである。
P35 売上を最大に経費を最小に、
 ここでも経理担当者と稲盛氏の確執が見え隠れしている。経営者としては売上が増えれば経費も増えるのは道理というのが常識。しかし経費を抑えよというのだ。
P36 値決めは経営、
 そこを解決する考えとして値決めがあるという。価格は相手があって簡単には決まらない。顧客が喜んで買ってくれるぎりぎりのところで注文をとって来い、という。
 価格は市場が決める、というので顧客の言いなりになる会社も少なくないだろう。高いと売れず在庫の山を築くし、安すぎると採算がとれない。
P65 モノ・お金の動きと伝票の対応は、
 これはどこの会社にもありそうな問題である。以前の勤務先でも実際の商品の動きと伝票の動きにタイムラグがあって不利になる事例があった。有償支給材が入荷したにも関わらず日付をずらして報告があるので相殺が遅れるのだ。
 一見合理性はあるが仕入先が倒産すると回収できない恐れがある。資材会社も自社に損はないため歩調をあわせるから始末が悪い。 
 即日即時処理は絶対である。
P106 ダブルチエックシステムのあり方
 これも前勤務先で実行したシステムだ。この場合は人的なことをいうのだが私が考えたのはヒューマンエラーを排するためにコンピューターを利用した。人間は間違いを犯す、という真理である。哲学としては同じことであるが。

 他にも無借金経営、アメーバ経営と話題の多い稲盛氏である。
 企業は成長するとあれこれ手を広げて更に成長を求める。しかしその過程ではドンブリ勘定になりかねないこともある。資産を持ちすぎてアップアップする大企業の何と多いことか。
 利益のある事業が赤字の事業を補填する例は多い。分かっておれば対策を打てるが・・。
 これを単細胞すなわちアメーバに分けて観察するのである。
 かつての松下電器産業の事業部制も同じ考えだった。
 トヨタの分社化も同じ、そして有名な看板方式も零細企業の経営原理すなわちカネ、ヒト、モノの不足を当座買いで経営するしかない。資金の偏在、ヒトの配置、モノの回転率。組織を細分化してムダの排除である。本書が単行本から今は文庫にもなって読み継がれるわけだ。

IT事始め③2011/06/04

        オフコンからPCへ
 そして98年、IBMのパソコンにOS2をインストールしてオフコンのソフトを搭載することになった。過渡期の方法だが現在まで利用されている。このマシンにしてからFDが小型になった。ハードもソフトも日進月歩で改良されてきた。価格はPCが30万円と格段に安くなった。しかし、プリンターはドット式で100万円近くはした。何よりソフト代がべらぼうな価格に跳ね上がった。メーカーはハードで利益を得られなくなり、多くは撤退していった。ソフトで稼ぐ構造に変換したのだった。
 そして依然として無くならない入力ミス撲滅に取り組んだ。社長命令で100%ミスをゼロにして正しい在庫情報をという。
       ソフトの知恵
 今まで別々のマシンのデータを一つに集めてチエックリストをプリントアウトして2人でデータチエックしたやり方を止めて個々に独立して入力し、FDにコピーしてメインのマシンで照合するというシステムのソフトを作ってもらった。ミスだけをプリントアウトしてミスしたマシンのみ訂正する。合うまで繰り返す。わずか1分もかからない。
 このソフトは半信半疑で使い始めたが若干の改善をしただけで見事にミスをなくすことに成功した。入力ミスは無くならないがチエック漏れをなくすという考え方である。
 人間の頭はみな違う。2人が同じ原始伝票を入力して同じ箇所を間違うことはない。あれば伝票が問題である。
        コロンブスの卵
 この成果の波及効果は大変大きかった。外部からの在庫の問い合わせにも自信をもって回答できる。仕入金額も自社のデータに絶対的の信頼が置かれるようになった。決算書も正しい在庫金額が反映されることになった。何度も繰り返したペーパーチエックを省いてしまった。時間ばかりか紙も節約になったのだ。
 経営者は時に無理難題を吹っかけるべきだと思ったものだ。100%ではなく99.9%ならこうはならなかった。働き一両、考え五両という。昔の言葉は今も生きている。単なる労働より考えて働くことの大切なことを学んだ。