大村大次郎著『悪の会計学』を読む2011/06/08

 双葉新書。2011.2.20発刊。あとがきによると著者は国税局に10年間勤務後フリーライターで活躍。とある。過去に300社超の企業の決算書を読み解いてきた経験から裏金つくり、会計操作、利益隠しという搦め手の本であるが実用性はあるのかな・・・。
 検事を辞めて弁護士になるとヤメ検と呼ぶらしいが国税の場合はどうなんだろう。つい先月にも国税OB税理士の犯罪が継続的に報道されていた。法の裏をくぐって有利にことを運ぶにはリスクも多い。さてこの本はまず内容を見てみよう。
 会計を知れば社会の裏側が見えてきます!とキャッチコピーが踊る。
 「はじめに」で会計学でもっとも大事な言葉として
脱税
裏金
粉飾決算
を挙げる。と経営者の本音のキーワードを引く。
 確かにこの三つの言葉は三位一体である。
 江戸時代、郡上一揆が起きた原因はまさにこれ。百姓はどこかに隠し田をもって年貢(納税)を少なくする。藩の役人も実際より少なく報告して上納する。ところが幕府の財政が逼迫すると厳しく取り立てるようになる。検地でお目こぼしをなくす。そうなると百姓も死活問題とばかりに騒ぐ。
 国、県や市町村の役人も隠し金を作るのは常識になっている。チエックの入らないカネは誰でも欲しいものだ。時代は現代においても同じこと。よく一揆が起きないものである。そのことはP119にも書いてある。
 さて会社の会計はどんな秘策があるというのか。
目次
第1章 決算書なんてどうにでもなる!
 合法的利益調整として減価償却の計上の操作を指摘している
第2章 会計の抜け穴
 やや作り話の気が無いでもない。
第3章 税務署と銀行のだまし方教えます
 粉飾決算が多い業種とは?のタイトルに引かれて読むとどうも公共事業関係の会社は受注を受けるために会社を大きく見せる粉飾をしているようです。
 中小企業の決算書が銀行から信用されないのは粉飾が多いからともいえます。本書にも監査法人を入れる必要のない中小企業は事実上野放しにされている、と喝破しています。
 新会計法上では会計参与を置くことになっているのですが実態は置いてない。置くだけの余裕もないのです。決算書の貸借対照表も公告するのですが実態としては放置ではないか。自社ホームページ上でいいことになっていますが儲かっていれば値下げ圧力、赤字ならば信用を落とす、いくら法令順守といっても徹底は難しい。
P99「大きな変動」、「利益率」に気をつけろ、とあります。重要です。
 これは私も体験があります。以前は無償支給していた材料を在庫管理が大変なので有償支給に切り替えました。これまでの在庫がゼロになり売掛金が急増したわけです。直感的に税務署に届けるべきと思っていましたが当時の会計担当者は顧問税理士にゲタを預けて知らん顔です。
 税務署だけでなく国税庁まで動き出したのでこちらも慎重に誠実に対応しましたがあら探しは無駄に終わりました。不正はやっていませんからね。責任者は胃薬の水をください、と私に言われたのでああもう終わるな、と安堵しました。
 野生動物は動く物を追いかける習性があります。税務当局も大きな変動には注目します。だから事前に会計処理の変更があれば届けるのが原則のはず。そのことはP103に税務調査のターゲットから逃れる方法にも指摘されています。変に当局を刺激しないことです。 
 他に裏金つくり、公私混同などの章がありますが一読してもサプライズも共感も得られませんでした。ちまちました策は策士策に溺れるの類で最初に指摘した国税OBの税理士のようにつまづきの元です。
 どうせなら会社は利益を出すことに知恵を絞りたい。悪知恵、浅知恵、猿知恵と知恵もいろいろ。「売上を最大にコストを最小に」知恵を使いましょうよ、ですね。

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