脱・日中国交へー中国観を見直す ― 2012/11/12
11/10付け、宮崎正弘ニュースの中の長いコメントから。
大変質の高いコメントが多数寄せられている。冷静で、現実的で、分析的ゆえに明察であるのでコピペしておきたい。
「◆尖閣危機 「石原都知事が引き金」は思うツボ 反日デモは戦前から(中西輝政/京都大学教授) 11月9日 WEDGE
日中間の目下の尖閣危機について奇妙なことが起こっている。それはあの激発的な反日暴動が中国全土で荒れ狂った直後から、日本国内で「折角、現状凍結で棚上げされてきた尖閣問題だったのに、日本政府が9月11日に行った国有化の決定が今回の大きな騒動を引き起こしたのだ」という見方がマスコミでも広く流布され始めたことだ。中国政府も同様のことを言っているが、これは明らかに事実に反している。
たとえばここに今年の3月17日付の新聞報道がある(『産経新聞』同日)。それによると前日の3月16日、尖閣諸島の久場島沖で中国の国家海洋局所属の大型で最新鋭の海洋監視船「海監50」と他1隻の中国の公船が日本の領海内を航行しているのを海上保安庁の巡視船が発見し警告したところ、「海監50」は「(尖閣諸島の)魚釣島を含むその他の島は中国の領土だ」と応答し、逆に日本側に退去を要求し、数時間にわたり日本の領海と接続水域を“巡回”した、と報じられている。このようなあからさまな中国の挑発行為は初めてのことと言ってよい。
周知の通り、日本政府の公船による海上からの巡視は1972年の沖縄返還(と同年秋の日中国交正常化)以来、ずっと行われてきたことだ。「今回どちらが先に現状凍結を破ったか」と問われれば、答は明らかであろう。さらに、8月15日には「香港の活動家」を使った強行上陸も行われていた。昨年の「3・11」以来、中国側の尖閣周辺での行動は急速にキナ臭さを増してきていた。こうした一連の流れの中で、4月16日の東京都の石原慎太郎都知事による「尖閣購入」の意思表明があったのである。
そもそも78年のトウ小平の「棚上げ」発言の十余年後(92年)、中国は「領海法」を制定し一方的に「尖閣諸島は中国領土」と規定、「棚上げ」を自ら放棄していたのである。
それにしても、なぜ今回、「日本による国有化が引き金を引いた」とか「都知事の提案が火を付けた」といった事実に反する評論が日本のメディアなどで語られ始めているのだろう。誠に奇妙な光景、と言うしかない。中国による対日世論工作があったのかもしれないが、もっと深い要因に目を向ける必要もある。
■丹羽前中国大使の中国観
「東京都が尖閣諸島を購入すれば日中関係はきわめて重大な危機に陥る」と6月7日付の英紙『フィナンシャル・タイムズ』のインタビューで発言した丹羽宇一郎駐中国大使。その中国観を窺わせる発言があった。そして、この「奇妙な光景」も、そうした中国観に由来しているところ大と言えるのである。作家の深田祐介氏によれば、大使就任の前に丹羽氏に取材した際、同氏は自信に満ちてこう明言したという。「将来は大中華圏の時代が到来します」「日本は中国の属国として生きていけばいいのです」「それが日本が幸福かつ安全に生きる道です」(『WILL』2012年7月号)。
日中の紛争は「全て日本側が折れるしかない」、なぜなら、いずれ「中国の属国」になるのだから、という点ではこの2つの発言には論理の整合性はあるわけである。
しかし、ここまで極端な表現をとらないとしても、こうした丹羽氏の発言と内心同じようなことを思っている人々は、実は日本の政界、経済界、マスコミを中心に結構多い。あたかもヨーロッパ大陸の国家群がEUを形成したように、中国と日本も簡単に市場統合できる、さらには1つの共同体を形成できると、考えているのかもしれない。
まず、そもそも現在の中国という存在が、「大中華圏」という世界史的な枠組にまでスムーズに自らを発展させられる可能性が果たしてあるのか。甚だ疑問と言える。この「大中華圏」論は一時の風潮に影響された根拠に乏しい趨勢論と言うしかない。
とはいえ、この20年、たしかに日本人の多くが、この誤った想念に衝き動かされてきたところがある。なるほど、この20年、中国は急激な経済成長を果たしたが、かつて日本にもそんな時代があったし、勿論、欧米先進国の多くはそれ以前にもっとめざましい時代を経験した。どうして中国だけが、今後も「永遠の成長」を約束されていると言えるのか。
しかし全く根拠なく喧伝され、それに踊らされてきたのが、この20年の日本の経済界でありメディアの姿だったと言うしかない。そのことが早くも露呈してきたのが現在の中国経済の変調と政治・社会の大いに危うい情勢の到来である。
そもそも、彼の国の経済が順調に発展しようが、崩れてしまおうが、いずれであっても、中国は、日本が一緒になれるような国ではない。そんなことは今回の暴動を見るまでもなく、中国史や近代世界の文明史を少し知っていれば、誰でもわかったことではないだろうか。今こそこのような誤った中国観を見直し、あくまで事実に基づいて、堅実な姿勢で、彼の国を見つめ直し対処していくことが求められている。
今や中国は「反日」以外に体制を支えるイデオロギーを失い、国内では政府や官僚の腐敗が極限まで進み、貧富の格差が不可逆的に広がり、明らかに体制崩壊の道を辿っている。経済も海外への依存が高過ぎるため、今や大変脆弱性を増し、すでに欧州債務危機の影響を色濃く受けている。さらにチベットやウイグルなど周辺民族との紛争や国内の深刻な人権問題を抱え、いつまで経っても真の民主化を果たせずにいる。この現状を考えれば、中国には分裂はあり得ても、他国との広域圏の形成など全くあり得ない。経済の論理だけで歴史は決して動かない。日本の経済界や識者は余りにも目先の経済要因に幻惑され過ぎている。
■深刻なチャイナ・リスク
それどころか、もっと重要な目先の動きがすでに始まっている。それは、こうした体制崩壊の危機をいよいよ外へと転化していくシナリオが現実に動き始めていることだ。非力な習近平という指導者を支える強力な軍部の動向を視野の外においていては、尖閣危機の本質も見えてこない。今、日本人はむしろ、こうしたより深刻な「チャイナ・リスク」の浮上を強く認識しなければならないのである。
今後の中国の戦略は次の3つの戦術をミックスさせた形で進められるだろう。
1つ目は、日本の経済に対する圧力をさらに強めていくこと。
2つ目は、国際社会への活発な宣伝攻勢によって日本を国際的に孤立させること。
3つ目は、軍事力も含めた対日心理戦の発動である。
まず中国国内では、一段と“対日経済制裁”を強めるだろう。すでに日本からの輸入品への関税検査を強化し通関手続きに遅れが出ている。
さらに、反日デモが日本企業に勤める中国人従業員の賃上げストライキと全国的な規模で合流すると、事態はさらに深刻さを増す。すでに、9月16日に起きた深セン(しんせん)での暴動においても、反日デモが日本企業での賃上げストと合流したことが報じられている。
これはまさに、満州事変が起きる前の「日支協調」が定着していた1920~1930年代に中国へ進出していた日本企業などで起きた現象である。しかも、今日分かってきたのだが、当時、勃興しつつあった中国の紡績関係の企業がライバルの日本企業に反日デモや従業員のストライキを仕掛けたこともあったという。有名な25年の5・30事件(上海の日本企業でのストライキに端を発し、反日デモに対して租界警察が発砲して、学生、労働者に死者、負傷者が出た事件)のパターンである。
こうした「反日の嵐」が10年以上にわたって中国全土でくり返された。このことが、満州事変や日中戦争の大きな背景要因だったのである。
■中国でくり返される「反日の嵐」
中国の政治文化や国民性として、こうしたパターンがくり返されることは、いわば一種の宿命とさえ言えよう。したがってそれは、今後も多かれ少なかれ続くであろう。それ故、日本の経済人は、もっと歴史から学ばなければならなかったのだが、「日本の侵略に全ての原因があった」とする戦後の自虐的な歴史観によって、かつての反日暴動の実態などの重要な歴史的事実が現在まで昭和史を扱う歴史書では語られてこなかったのである。
勿論過度に単純化はできないとしても、国と国の構図は歴史の中で繰り返されるものであり、果たしてそれを理解した上での日中友好であり中国進出であったのか、遅まきながら、かつてなく掘り下げた検証が必要だ。
次に中国は、国連や国際世論、国際法を利用して国際社会への宣伝攻勢をさらに強化していくであろう。
これに対し日本が国際世論を味方に付けるには、国連の場だけでなく米国やオーストラリア、ASEAN(東南アジア諸国連合)など価値観と利害を共有できる国々に対し、政府間だけでなく、相手国世論の形成にもあわせて働きかけていく精力的な国際広報活動が是が非でも必要である。
このためには、新たに総理官邸が直接統括する「対外広報庁」の設置などが早急に求められる。当面は40億円規模の予算(今年度の対中ODA予算と同額)で運営できるものでもよい。すぐに具体化することだ。
それはまた、尖閣問題以外にも「従軍慰安婦」などの歴史問題に対する日本の見解についての広報や、日本の市場アクセス、さらには巨大プロジェクト、高速鉄道といったインフラ輸出などの経済外交にも活用できる。
しかし次の段階として、中国の公船や漁船が何十隻と大挙して尖閣諸島に上陸してくる事態になれば、軍事力の対峙、「一触即発」の状況も考慮される。いよいよこうした状況になれば同盟国である米国の動向がカギを握ることは言うまでもない。そのためにも、日米は今から大きな対中戦略の頻繁なすり合わせや基地問題の早急な解決に取り組み、米国との関係を緊密にしておかなければならない。
さらに急がれるのは、まず従来の憲法解釈を改め、集団的自衛権を行使できるようにし、同盟国として対等な責任を果たす意思を今すぐにでも示すことだ。こうした内容を米国とともに共同声明として表明できれば、日米同盟の抑止力の画期的な向上を、中国をはじめとする国際社会にアピールできる。
オバマ大統領も昨年11月にアジア太平洋地域を米国の世界戦略の最重点地域と位置付けることを宣言したが、これは日本の集団的自衛権行使を前提にした新戦略だ。南シナ海やマラッカ海峡などのシーレーンを守るべきASEAN諸国は海軍力が弱く、日米が同海域で海軍や海上自衛隊による共同軍事演習を行うことが中国への牽制、抑止になり、中国を現状秩序の維持へと向かわせることにつながる。
中国の強硬姿勢がさらに激化し、武力衝突に至る可能性もゼロではない。中国は実際に南シナ海でも武力行使をくり返しながら海洋進出してきた。また、それに向けた布石ともいえる法律(「領海法」や「離島防衛法」など)を制定している。
法律といえば、ここまで事態が切迫してきた以上、中国が2010年7月に施行した「国防動員法」にも改めて注意を向けておく必要がある。この法律は、中国が有事の際(あるいは緊急時でも)、中国国内で事業を営む外国企業は資産や業務、技術を中国政府に提供しなければならないと規定している。もし万が一、日中がこれ以上、緊張を高める事態となれば、中国に進出している日本企業は、製品やサービスを中国政府や中国軍に提供しなければならないと定められているのだ。
さらに同法では、外国に居住する中国人も、中国政府の指示に従わなければならないとされている。有事などの際、日本に在住する中国人は中国政府の指示に従って日本で反日デモや暴動を起こす可能性も全くなしとは言えないだろう。つまり、日本国内での騒擾事件も起きかねないということも頭に入れておく必要があり、治安機関などにおいてもそうした想定での対応が求められる。(後略)」
以上。
改めて考えると、
上記のコピーを再度コピーする。「作家の深田祐介氏によれば、大使就任の前に丹羽氏に取材した際、同氏は自信に満ちてこう明言したという。「将来は大中華圏の時代が到来します」「日本は中国の属国として生きていけばいいのです」「それが日本が幸福かつ安全に生きる道です」(『WILL』2012年7月号)。」
なぜこんな考え方に傾倒してしまったのか?
検索してみました。
それは、はっと、思い出したのですが、かつてNHKがサミュエル・ハンチントンなる学者を招いて特集し、そのインタビューに驚いたことを思い出しました。質疑応答は正確ではないが、
アナウンサー「日本の立場はどうなるのか?」
S・ハンチントン「日本はアメリカを離れて、中国の属国になるでしょう」
と言ったのではないか。
あの頃、胡散臭い気がして、『文明の衝突』(1998年、集英社)という著作も読まなかった。アマゾンのコメントからなるほどと思ったコメントをコピペすると
「38 人中、19人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。5つ星のうち 5.0 中華文明と日本, 2007/4/17
By 茘枝 (千葉県) - レビューをすべて見るレビュー対象商品: 文明の衝突 (単行本)
この本の凄さは数々あれど、日本がユニークだ、と指摘してくれた事は我々にとって特筆すべき慶事だ。
私自身中国と20年余り付き合って来て、何だか違うなあ、と感じていたのだ。でも昔から日本と中国は「同文同種」が常識だったので、イスラム文明やキリスト教文明に比べて、やっぱり日本と中国は儒教や仏教や漢字で括られる、一つの文化圏なのかなあとも思っていたのだ。
この本では日本は孤立したりアメリカと中国の間で振れたりし、最終的には中国に付く事になっているが、日本がユニークだと判ったからには別に中国に付く必要なんか無い。中国の現政権はイデオロギーで多民族を無理やり纏めようとしている時代錯誤の共産党だ。(中国とアメリカだけが、イデオロギーで纏まっている様な纏まっていないような、二大超大国というか、帝国、かな。後は殆ど概ね民族国家)日本にとって危うい事この上無いし、第一合わない。二つの民族(漢と和)は仲良くしようとしてもお互い生理的に気に食わない。中国を同じ文明の宗主国と仰ぐ(又はその反対の)事は、絶対に止めたほうが良い。前世紀に悲劇の結末を迎えたばかりではないか。
でも、何でこうなるのだろう、と皆不思議だった筈だ。何でこんなにお互いの箸の上げ下ろしまで癇に障るのだろう、と。それにこの本は答えを与えてくれた。「違う」のだ。日本は日本で一つの文明で、中華文明では無いのだ。翻って、朝鮮半島は中華文明なのだ。だからずっと宗屬関係を維持出来、破局を迎えなかったのだ。
他の文明圏に関しても、こんな「成る程、そうだったのか!」が一杯。是非読むべし。 」
丹羽氏も「日本人は変わっている(=ユニーク)」と発言し、「中国の属国になる」という考え方は、どうも『文明の衝突』の影響ではないか。しかも丹羽氏だけでなく多くの経済人がそう思うのだから、1998年当時、バブル崩壊後の10年デフレ、不良債権など山積していた日本で、マスコミの総悲観キャンペーンにうまく乗ってベストセラーになった。刷り込まれた経営者の卵は、後にトップになると、中国への傾斜を高めても不思議ではない。
日本は銀行の不良債権を一掃して、集約が進み、世界で最も力のある金融機関になっているはずだ。円高とデフレが問題になっているが、中国への投資を止めて、日本の国土開発、軍事、原発などへ振り替えればよい。
中国へ投資を拡大したため、中国の軍備の強化に回され、日本への脅威を育てているアホな状態である。日本が一生懸命に育てても、孵化したわが子は日本市場のためにはならず、中国共産党の延命に力を貸しているだけなのだ。
日本回帰が今後の課題であることが明白になったと思う。「中国とは違う」ことを認識し、交流してゆくことであろう。中国をよく知ることだ。
丹羽氏のようなコスモポリタンは、日本の孤立を恐れ、強大な国に依存したい意向があるようだ。戦前のアメリカへの無邪気な憧れが、裏切られて、日米戦争になったように、中国への無知からくる幻想も、日中戦争への引き金になる。
大変質の高いコメントが多数寄せられている。冷静で、現実的で、分析的ゆえに明察であるのでコピペしておきたい。
「◆尖閣危機 「石原都知事が引き金」は思うツボ 反日デモは戦前から(中西輝政/京都大学教授) 11月9日 WEDGE
日中間の目下の尖閣危機について奇妙なことが起こっている。それはあの激発的な反日暴動が中国全土で荒れ狂った直後から、日本国内で「折角、現状凍結で棚上げされてきた尖閣問題だったのに、日本政府が9月11日に行った国有化の決定が今回の大きな騒動を引き起こしたのだ」という見方がマスコミでも広く流布され始めたことだ。中国政府も同様のことを言っているが、これは明らかに事実に反している。
たとえばここに今年の3月17日付の新聞報道がある(『産経新聞』同日)。それによると前日の3月16日、尖閣諸島の久場島沖で中国の国家海洋局所属の大型で最新鋭の海洋監視船「海監50」と他1隻の中国の公船が日本の領海内を航行しているのを海上保安庁の巡視船が発見し警告したところ、「海監50」は「(尖閣諸島の)魚釣島を含むその他の島は中国の領土だ」と応答し、逆に日本側に退去を要求し、数時間にわたり日本の領海と接続水域を“巡回”した、と報じられている。このようなあからさまな中国の挑発行為は初めてのことと言ってよい。
周知の通り、日本政府の公船による海上からの巡視は1972年の沖縄返還(と同年秋の日中国交正常化)以来、ずっと行われてきたことだ。「今回どちらが先に現状凍結を破ったか」と問われれば、答は明らかであろう。さらに、8月15日には「香港の活動家」を使った強行上陸も行われていた。昨年の「3・11」以来、中国側の尖閣周辺での行動は急速にキナ臭さを増してきていた。こうした一連の流れの中で、4月16日の東京都の石原慎太郎都知事による「尖閣購入」の意思表明があったのである。
そもそも78年のトウ小平の「棚上げ」発言の十余年後(92年)、中国は「領海法」を制定し一方的に「尖閣諸島は中国領土」と規定、「棚上げ」を自ら放棄していたのである。
それにしても、なぜ今回、「日本による国有化が引き金を引いた」とか「都知事の提案が火を付けた」といった事実に反する評論が日本のメディアなどで語られ始めているのだろう。誠に奇妙な光景、と言うしかない。中国による対日世論工作があったのかもしれないが、もっと深い要因に目を向ける必要もある。
■丹羽前中国大使の中国観
「東京都が尖閣諸島を購入すれば日中関係はきわめて重大な危機に陥る」と6月7日付の英紙『フィナンシャル・タイムズ』のインタビューで発言した丹羽宇一郎駐中国大使。その中国観を窺わせる発言があった。そして、この「奇妙な光景」も、そうした中国観に由来しているところ大と言えるのである。作家の深田祐介氏によれば、大使就任の前に丹羽氏に取材した際、同氏は自信に満ちてこう明言したという。「将来は大中華圏の時代が到来します」「日本は中国の属国として生きていけばいいのです」「それが日本が幸福かつ安全に生きる道です」(『WILL』2012年7月号)。
日中の紛争は「全て日本側が折れるしかない」、なぜなら、いずれ「中国の属国」になるのだから、という点ではこの2つの発言には論理の整合性はあるわけである。
しかし、ここまで極端な表現をとらないとしても、こうした丹羽氏の発言と内心同じようなことを思っている人々は、実は日本の政界、経済界、マスコミを中心に結構多い。あたかもヨーロッパ大陸の国家群がEUを形成したように、中国と日本も簡単に市場統合できる、さらには1つの共同体を形成できると、考えているのかもしれない。
まず、そもそも現在の中国という存在が、「大中華圏」という世界史的な枠組にまでスムーズに自らを発展させられる可能性が果たしてあるのか。甚だ疑問と言える。この「大中華圏」論は一時の風潮に影響された根拠に乏しい趨勢論と言うしかない。
とはいえ、この20年、たしかに日本人の多くが、この誤った想念に衝き動かされてきたところがある。なるほど、この20年、中国は急激な経済成長を果たしたが、かつて日本にもそんな時代があったし、勿論、欧米先進国の多くはそれ以前にもっとめざましい時代を経験した。どうして中国だけが、今後も「永遠の成長」を約束されていると言えるのか。
しかし全く根拠なく喧伝され、それに踊らされてきたのが、この20年の日本の経済界でありメディアの姿だったと言うしかない。そのことが早くも露呈してきたのが現在の中国経済の変調と政治・社会の大いに危うい情勢の到来である。
そもそも、彼の国の経済が順調に発展しようが、崩れてしまおうが、いずれであっても、中国は、日本が一緒になれるような国ではない。そんなことは今回の暴動を見るまでもなく、中国史や近代世界の文明史を少し知っていれば、誰でもわかったことではないだろうか。今こそこのような誤った中国観を見直し、あくまで事実に基づいて、堅実な姿勢で、彼の国を見つめ直し対処していくことが求められている。
今や中国は「反日」以外に体制を支えるイデオロギーを失い、国内では政府や官僚の腐敗が極限まで進み、貧富の格差が不可逆的に広がり、明らかに体制崩壊の道を辿っている。経済も海外への依存が高過ぎるため、今や大変脆弱性を増し、すでに欧州債務危機の影響を色濃く受けている。さらにチベットやウイグルなど周辺民族との紛争や国内の深刻な人権問題を抱え、いつまで経っても真の民主化を果たせずにいる。この現状を考えれば、中国には分裂はあり得ても、他国との広域圏の形成など全くあり得ない。経済の論理だけで歴史は決して動かない。日本の経済界や識者は余りにも目先の経済要因に幻惑され過ぎている。
■深刻なチャイナ・リスク
それどころか、もっと重要な目先の動きがすでに始まっている。それは、こうした体制崩壊の危機をいよいよ外へと転化していくシナリオが現実に動き始めていることだ。非力な習近平という指導者を支える強力な軍部の動向を視野の外においていては、尖閣危機の本質も見えてこない。今、日本人はむしろ、こうしたより深刻な「チャイナ・リスク」の浮上を強く認識しなければならないのである。
今後の中国の戦略は次の3つの戦術をミックスさせた形で進められるだろう。
1つ目は、日本の経済に対する圧力をさらに強めていくこと。
2つ目は、国際社会への活発な宣伝攻勢によって日本を国際的に孤立させること。
3つ目は、軍事力も含めた対日心理戦の発動である。
まず中国国内では、一段と“対日経済制裁”を強めるだろう。すでに日本からの輸入品への関税検査を強化し通関手続きに遅れが出ている。
さらに、反日デモが日本企業に勤める中国人従業員の賃上げストライキと全国的な規模で合流すると、事態はさらに深刻さを増す。すでに、9月16日に起きた深セン(しんせん)での暴動においても、反日デモが日本企業での賃上げストと合流したことが報じられている。
これはまさに、満州事変が起きる前の「日支協調」が定着していた1920~1930年代に中国へ進出していた日本企業などで起きた現象である。しかも、今日分かってきたのだが、当時、勃興しつつあった中国の紡績関係の企業がライバルの日本企業に反日デモや従業員のストライキを仕掛けたこともあったという。有名な25年の5・30事件(上海の日本企業でのストライキに端を発し、反日デモに対して租界警察が発砲して、学生、労働者に死者、負傷者が出た事件)のパターンである。
こうした「反日の嵐」が10年以上にわたって中国全土でくり返された。このことが、満州事変や日中戦争の大きな背景要因だったのである。
■中国でくり返される「反日の嵐」
中国の政治文化や国民性として、こうしたパターンがくり返されることは、いわば一種の宿命とさえ言えよう。したがってそれは、今後も多かれ少なかれ続くであろう。それ故、日本の経済人は、もっと歴史から学ばなければならなかったのだが、「日本の侵略に全ての原因があった」とする戦後の自虐的な歴史観によって、かつての反日暴動の実態などの重要な歴史的事実が現在まで昭和史を扱う歴史書では語られてこなかったのである。
勿論過度に単純化はできないとしても、国と国の構図は歴史の中で繰り返されるものであり、果たしてそれを理解した上での日中友好であり中国進出であったのか、遅まきながら、かつてなく掘り下げた検証が必要だ。
次に中国は、国連や国際世論、国際法を利用して国際社会への宣伝攻勢をさらに強化していくであろう。
これに対し日本が国際世論を味方に付けるには、国連の場だけでなく米国やオーストラリア、ASEAN(東南アジア諸国連合)など価値観と利害を共有できる国々に対し、政府間だけでなく、相手国世論の形成にもあわせて働きかけていく精力的な国際広報活動が是が非でも必要である。
このためには、新たに総理官邸が直接統括する「対外広報庁」の設置などが早急に求められる。当面は40億円規模の予算(今年度の対中ODA予算と同額)で運営できるものでもよい。すぐに具体化することだ。
それはまた、尖閣問題以外にも「従軍慰安婦」などの歴史問題に対する日本の見解についての広報や、日本の市場アクセス、さらには巨大プロジェクト、高速鉄道といったインフラ輸出などの経済外交にも活用できる。
しかし次の段階として、中国の公船や漁船が何十隻と大挙して尖閣諸島に上陸してくる事態になれば、軍事力の対峙、「一触即発」の状況も考慮される。いよいよこうした状況になれば同盟国である米国の動向がカギを握ることは言うまでもない。そのためにも、日米は今から大きな対中戦略の頻繁なすり合わせや基地問題の早急な解決に取り組み、米国との関係を緊密にしておかなければならない。
さらに急がれるのは、まず従来の憲法解釈を改め、集団的自衛権を行使できるようにし、同盟国として対等な責任を果たす意思を今すぐにでも示すことだ。こうした内容を米国とともに共同声明として表明できれば、日米同盟の抑止力の画期的な向上を、中国をはじめとする国際社会にアピールできる。
オバマ大統領も昨年11月にアジア太平洋地域を米国の世界戦略の最重点地域と位置付けることを宣言したが、これは日本の集団的自衛権行使を前提にした新戦略だ。南シナ海やマラッカ海峡などのシーレーンを守るべきASEAN諸国は海軍力が弱く、日米が同海域で海軍や海上自衛隊による共同軍事演習を行うことが中国への牽制、抑止になり、中国を現状秩序の維持へと向かわせることにつながる。
中国の強硬姿勢がさらに激化し、武力衝突に至る可能性もゼロではない。中国は実際に南シナ海でも武力行使をくり返しながら海洋進出してきた。また、それに向けた布石ともいえる法律(「領海法」や「離島防衛法」など)を制定している。
法律といえば、ここまで事態が切迫してきた以上、中国が2010年7月に施行した「国防動員法」にも改めて注意を向けておく必要がある。この法律は、中国が有事の際(あるいは緊急時でも)、中国国内で事業を営む外国企業は資産や業務、技術を中国政府に提供しなければならないと規定している。もし万が一、日中がこれ以上、緊張を高める事態となれば、中国に進出している日本企業は、製品やサービスを中国政府や中国軍に提供しなければならないと定められているのだ。
さらに同法では、外国に居住する中国人も、中国政府の指示に従わなければならないとされている。有事などの際、日本に在住する中国人は中国政府の指示に従って日本で反日デモや暴動を起こす可能性も全くなしとは言えないだろう。つまり、日本国内での騒擾事件も起きかねないということも頭に入れておく必要があり、治安機関などにおいてもそうした想定での対応が求められる。(後略)」
以上。
改めて考えると、
上記のコピーを再度コピーする。「作家の深田祐介氏によれば、大使就任の前に丹羽氏に取材した際、同氏は自信に満ちてこう明言したという。「将来は大中華圏の時代が到来します」「日本は中国の属国として生きていけばいいのです」「それが日本が幸福かつ安全に生きる道です」(『WILL』2012年7月号)。」
なぜこんな考え方に傾倒してしまったのか?
検索してみました。
それは、はっと、思い出したのですが、かつてNHKがサミュエル・ハンチントンなる学者を招いて特集し、そのインタビューに驚いたことを思い出しました。質疑応答は正確ではないが、
アナウンサー「日本の立場はどうなるのか?」
S・ハンチントン「日本はアメリカを離れて、中国の属国になるでしょう」
と言ったのではないか。
あの頃、胡散臭い気がして、『文明の衝突』(1998年、集英社)という著作も読まなかった。アマゾンのコメントからなるほどと思ったコメントをコピペすると
「38 人中、19人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。5つ星のうち 5.0 中華文明と日本, 2007/4/17
By 茘枝 (千葉県) - レビューをすべて見るレビュー対象商品: 文明の衝突 (単行本)
この本の凄さは数々あれど、日本がユニークだ、と指摘してくれた事は我々にとって特筆すべき慶事だ。
私自身中国と20年余り付き合って来て、何だか違うなあ、と感じていたのだ。でも昔から日本と中国は「同文同種」が常識だったので、イスラム文明やキリスト教文明に比べて、やっぱり日本と中国は儒教や仏教や漢字で括られる、一つの文化圏なのかなあとも思っていたのだ。
この本では日本は孤立したりアメリカと中国の間で振れたりし、最終的には中国に付く事になっているが、日本がユニークだと判ったからには別に中国に付く必要なんか無い。中国の現政権はイデオロギーで多民族を無理やり纏めようとしている時代錯誤の共産党だ。(中国とアメリカだけが、イデオロギーで纏まっている様な纏まっていないような、二大超大国というか、帝国、かな。後は殆ど概ね民族国家)日本にとって危うい事この上無いし、第一合わない。二つの民族(漢と和)は仲良くしようとしてもお互い生理的に気に食わない。中国を同じ文明の宗主国と仰ぐ(又はその反対の)事は、絶対に止めたほうが良い。前世紀に悲劇の結末を迎えたばかりではないか。
でも、何でこうなるのだろう、と皆不思議だった筈だ。何でこんなにお互いの箸の上げ下ろしまで癇に障るのだろう、と。それにこの本は答えを与えてくれた。「違う」のだ。日本は日本で一つの文明で、中華文明では無いのだ。翻って、朝鮮半島は中華文明なのだ。だからずっと宗屬関係を維持出来、破局を迎えなかったのだ。
他の文明圏に関しても、こんな「成る程、そうだったのか!」が一杯。是非読むべし。 」
丹羽氏も「日本人は変わっている(=ユニーク)」と発言し、「中国の属国になる」という考え方は、どうも『文明の衝突』の影響ではないか。しかも丹羽氏だけでなく多くの経済人がそう思うのだから、1998年当時、バブル崩壊後の10年デフレ、不良債権など山積していた日本で、マスコミの総悲観キャンペーンにうまく乗ってベストセラーになった。刷り込まれた経営者の卵は、後にトップになると、中国への傾斜を高めても不思議ではない。
日本は銀行の不良債権を一掃して、集約が進み、世界で最も力のある金融機関になっているはずだ。円高とデフレが問題になっているが、中国への投資を止めて、日本の国土開発、軍事、原発などへ振り替えればよい。
中国へ投資を拡大したため、中国の軍備の強化に回され、日本への脅威を育てているアホな状態である。日本が一生懸命に育てても、孵化したわが子は日本市場のためにはならず、中国共産党の延命に力を貸しているだけなのだ。
日本回帰が今後の課題であることが明白になったと思う。「中国とは違う」ことを認識し、交流してゆくことであろう。中国をよく知ることだ。
丹羽氏のようなコスモポリタンは、日本の孤立を恐れ、強大な国に依存したい意向があるようだ。戦前のアメリカへの無邪気な憧れが、裏切られて、日米戦争になったように、中国への無知からくる幻想も、日中戦争への引き金になる。